加藤 賢一 データセンター

恒星スペクトル線のカタログと解析法

1.はじめに 

2.吸収線波長、強度、広がりに関するデータ
A. NIST 
B. Kurucz
C. VALD: The Vienna Atomic Line Data Base
D. 平田・洞口リスト
E. The Atomic Line List v2.04
F. Atomic Data for Astrophysics
G. Opacity Project
H. 手軽に利用できるその他のデータ
I. その他


3.観測データ
A. 出版されているスペクトル図
B. CD-ROM や on-line で利用できるもの
C. On line で取れるもの
D. スペクトル線の強度や輪郭のデータ

4.解析手段
A. Kurucz's library
B. Gray's library
C. 竹田洋一氏のSPTOOL


2000.3.21.-22. 京都大学宇宙物理学教室

天文情報処理研究会 「天文学とカタログ」 での発表

kato@sci-museum.kita.osaka.jp


1.はじめに
 日本天文学会編「星図星表めぐり」第1版は1977年に出版され、1989年には新版が発刊された.そこには山下泰正先生が「スペクトル型の表とスペクトル線の表」を執筆されている.本稿はそのうちのスペクトル線のデータの発展を元素量解析に関するデータ中心に紹介したい.なお、原子・分子の分光データ全般については下記の収録が参考になろう。これはハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げに触発されて開催された研究会の収録で、紫外線・赤外線の分光に焦点を当て、各種基礎データの出所等が要領よくまとめられている:
 
Atomic and Molecular Data for Space Astronomy, 1992, ed. P. L. Smith and W. L. Wiese, Lecture Notes in Physics 407, Springer

2.吸収線波長、強度、広がりに関するデータ
 吸収線解析に関係するパラメータのうち最も基本的なエネルギーレベルや波長に関してもまだ整備していかなければならない状況である。これらに関しては上記収録の Martin (1992) の論文を参照されたい。以下では吸収線強度に関するデータとしてgf値のデータベースを中心に見ていこう。

A. NIST (National Institute of Standard and Technology)
 NIST(旧NBS)では Atomic Energy Levels Data Center および Data Center on Atomic Transition Probabilities の2部門が原子・分子データについて長年にわたり研究・発表してきており、精度がよく吟味されていることで、斯界の信頼を得ている。現在、各種データ表がいくつかのデータベースにまとめられ、下記 Web 上で公開されている。山下(1977)が紹介したWieseらのデータも含まれており、印刷されたものを入手する必要がないのはありがたい。ただ、精度に信頼がおける分、量的には少ないので物足りない時があるかも知れない。
 図1に下記Webページのトップページを掲げておく。ここの Atomic Spectroscopic Data がここで直接関係する項目である。

http://physics.nist.gov/PhysRefData/

------------------------------------------------
図1.NIST,Physical Reference Data のトップページ (略)
------------------------------------------------

B. Kurucz
 Smithsonian Astrophysical Observatory の Kurucz は長年にわたり理論的大気モデルの構築を図ってきたが、その途上で原子線・分子線の基礎データを理論的に求める仕事をしており、1990年あたりまでの成果をCD-ROMならびに Web 上で公開している(Kurucz 1990)。そのデータを元に1993年の大気モデルATLAS9(Kurucz CD-ROM 13)が計算されたが、そこでは実に5800万本の吸収線による毛布効果 blanketing が考慮されている。5800万本のうち約5700万本は分子(H2, CH, NH, OH, MgH, SiH, CO, SiO, CN, C2, TiOなど)で、原子は85万本にすぎない。これらのデータはほとんどが彼自身の理論計算によるものである。こうした意味では Kurucz のデータベースは分子線データベースと言うべきものである。彼は大気線データ整備にも力を注いでいるところである。
 原子線データのうち約70万本は Kurucz & Peytremann (1975) や Kurucz (1981)の1階電離鉄などの理論計算が元になっており、それに他の研究者の手による実験データも加えられており、一つの大きなデータベースとなっている。gf値の他、吸収線の広がりに関するパラメータ(radiative damp.,quadratic Stark broadening, van der Waals interation)も与えられているのはありがたい。なお、このうち信頼性のおけるデータとして53万本を抽出し、合成スペクトル計算用としてしている(CD-
ROM 23)。図2はこの53万本のデータのうち該当する波長範囲を選んでどの程度網羅されているかを示したもので、太陽スペクトルと比較した。縦軸がその波長に線データがあり、太陽モデルで計算された強度(等価幅)が縦軸の長さで示されている。これは原子線だけのデータで、分子は含んでいない。
 Kurucz のデータベースには超微細構造に関するデータも広く収集されて納められている。その例として4129.7Åのユーロピウム Eu II の超微細構造により広がっている線を紹介した。これまでは個々の文献に当たって調べていたので、このようなデータベースが利用できるのはありがたいことである。しかし、この例でも分かるように,必ずしもコンパイル時によく吟味されているわけではないようなので、使用に当たっては注意を要する。
 Kurucz はこうしたデータの他にもモデル大気、元素量解析、合成スペクトル等の計算プログラムも公開しており、同じ Web ページからダウンロードできる(もちろん CD-ROMにも採録されている)。

http://cfaku5.harvard.edu/cdroms.html

 これだけの量の原子線データが与えられるとスペクトル線の同定は非常に容易になる。筆者がプロキオン(F5IV-V, Teff=6500K)と磁気特異星HR7575(F0pSrCrEu, Teff=8500K)で試みたところ、データを元に線の等価幅を理論的に求め、観測と比較することにより90%以上同定できた(ただし等価幅50mÅ以上)。
 なお、筆者の知る限りわが国には Kurucz のCD-ROM セットは国立天文台と大阪教育大学(定金晃三氏)の2ヶ所に配布されている。

------------------------------------------------
図2.Kurucz の原子線データの例.曲線は太陽スペクトル,縦線が計算された吸収線の等価幅に相当する.10mÅ以上を表示.4129.7ÅのEu II線付近.
(略)
------------------------------------------------


C. VALD: The Vienna Atomic Line Data Base
 ウィーン大学で作成された原子線約70万本を納めたデータベースである。その大半は Kurucz & Peytremann (1975) および Kurucz の CD-ROM No. 13, 18, 20, 21, 22(1993, 1994) であり、それに他(主に NIST)から収集した約15000本を採録したものである。正確で一様なデータと称しているが、基本的には Kurucz のデータベースにほとんど含まれてしまう。
 このデータベースを利用するにはまず、
VALDADM@GALILEO.AST.UNIVE.AC.AT
宛に氏名と電子メールアドレスを送り、登録を受ける。その後、
VALD@GALILEO.AST.UNIVE.AC.AT
にコマンドを書き並べたメールを送ると後でデータが送付されるという仕組みで、今となっては「少々邪魔くさい」というところであろうか。詳しくは下記のVALDのホームページを参照のこと。

http://www.astro.uu.se/~vald/

D. 平田・洞口リスト
 京都大学の平田龍幸・洞口俊博両氏がまとめた原子線リストが Astronomical Data Center で公開され、また、このたび ADC Selected Astronomical Catalogs Vol.4 (1999) に採録されて、手軽るに利用できるようになった。少々閉鎖的な感のあるVALDに比べて極めてオープンであり、大いに利用をおすすめしたい。また、地味な作業を要するこのようなリストがわが国で作成されたことは高く評価されてしかるべきであると思う。
 このリストに納められている約63万本のうち多くはやはり Kurucz & Peytremann (1975)が元であり、その後CD-ROM No. 20, 21, 22(1994)に採録されたデータ、および他(主に NIST)から約15万本を収集し、納めたものである。こうした点ではVALDと類似しているが、平田・洞口リストの最も大きな特徴は単純なコンパイルではなく、それぞれのデータについて検討を加えていることで、それは約1800件におよぶ参考文献が列挙されていることから推察される。このリストから図2と同じ領域のデータを拾ったのが図3で、Kurucz データよりも良質と言えるだろう。コンパイル・データとしては現在最も信頼のおけるものではないかと思う。ただし、吸収線の広がりに関するパラメータは与えられていない。

------------------------------------------------
図3.平田・洞口の原子線データの例.他は図2に同じ. (略)
------------------------------------------------

E. The Atomic Line List v2.04
 ケンタッキー大学でコンパイルされた92万余の原子線リストで、

http://www.pa.uky.edu/~peter/atomic

にアップされている。NISTのエネルギーレベルのデータから波長を計算したのが特徴で、線の同定に使えるというのがうたい文句であるが、恒星大気より高温のプラズマを想定しており、高い励起ポテンシャルの線がほとんどであるため、恒星スペクトル解析には適していない。星雲や超新星残骸、クエーサー等のスペクトル線解析用である。

F. Atomic Data for Astrophysics
 ケンタッキー大学のホームページにあるリンク集で、photoionization, recombination,collional ionization, Stark broadening などのデータへつながるようになっている。直接データを与えるものではないが、non-LTE line transferや星雲輝線の解析などをしたい場合には有用なリンク集であろう。なお、これは上記E.のデータとともに高温プラズマのスペクトルを計算するコードCLOUDY90用に用意されたものである(Ferland et al. 1998)。サイトは以下のとおりである。

http://www.pa.uky.edu/~verner/atom.html

G. Opacity Project
 Centre de Donnees Astronomique de Strasbourg (CDS) の Web ページで公開されている Opacity Project の結果であるが、恒星大気吸収線解析に利用できるデータは極めて少ない。

H. 手軽に利用できるその他のデータ
 ほとんどがKuruczや平田・洞口リストにあるので内容的には重複するが、 ADC Selected Astrono-mical Catalogsおよび国立天文台天文学データ解析計算センター(NAOJ/ADAC)作成のCD-ROMは安価で、手元において気軽に利用できるのでありがたい。採録されている関係データをまとめておく。これらはADC(http://adc.gsfc.nasa.gov/)にあるものだから、インターネット経由でADCから取ることもできるし、ADCのミラーサイトである国立天文台天文学データ解析計算センター(NAOJ/ADAC)からもダウンロードすることもできる。

ADC, Vol. 1 (1991)
・Identification List of Lines in Stellar Spectra (Moore 1959)
ADC, Vol. 2 (1995)
・Atomic Transition Probabilities, Sc-Ni (NIST 1993)
・Atomic Spectral Lines Data OII, Mg, Al, S, Sc (NIST 1993) 
・Atomic Energy Level Data (NIST 1993)
ADC, Vol. 3 (1996)
・Line Spectra of the Elements (Reader, Corliss 1980-1981)
ADC, Vol.4 (1999)
・Atomic Spectral Line List (Hirata & Horaguchi 1995)
・Bibliography of Atomic Line Identification Lists (Adelman 1996) 

 なおその他、ADCおよび国立天文台天文学データ解析計算センター(NAOJ/ADAC)にはADC CD-ROM に収録されたデータ以外に次のような関係データが収集保管されている。

・6010, Table of Semi-empirical gf Value, Kurucz & Petremann, 1975 
・6016, Line Spectra of the Elements, Reader,1981 
・6029, Finding List for Multplet Table, Adelman & Fischel, 1984
・6033, Tab.of Semiempirical gf Values for FeII, Kurucz,1981 
・6034, Multiplet Table & Finding List for MnI, Adelman+,1989 
・6048, Fe II Reference Catalog, Viotti,Baratta,1988 

 最近、希土類元素の2階電離イオンの吸収線が磁気特異星の未同定線に関係しているのではないかとして関連研究者の注目を集めている。下記の Biemontらのデータベース D.R.E.A.M. を参照されたい。

http://www.umh.ac.be/~astro/dream.shtml

パリ天文台のデータベースに Stark 効果についての文献とデータが載っている.次を参照のこと.

http://www.obspm.fr/sciences/database.en.shtml

I. その他
 以上挙げたデジタルデータは今日的に大変有用なものであるが、印刷された線リストもクイック・リファレンス用には便利である。現在では入手不可能と思うが、下記の太陽スペクトル線の同定表はそうした代表例で、手元にあると重宝する。これのデジタル版があればと思うのは筆者だけではあるまいが、データが膨大だけに入力は大変だろう。

C. E. Moore, M. G. J. Minnaert, and J. Houtgast, The Solar Spectrum 2939Å to 8770Å, Second Revision of Rowland's Preliminary Table of Solar Spectrum Wavelengths, NBS Monograph 61 (1966)


3.観測データ
 スペクトル線の強度や輪郭のデータやスペクトル図などが手元にあると便利なことが多い。Moore et al. (1966) の太陽スペクトル表などはその点でも重宝されている。代表的な恒星についてはスペクトル図が出版されている。

A. 出版されているスペクトル図
 出版されているスペクトル図のうち、代表的なものを挙げておく。 
1)太陽
・Photometric Atlas of the Solar Spectrum fromλ3000 toλ10000, 1973, by L. Delbouille, G. Roland, and L. Neven, Institut d'Astrophysique de l'Universite de Liege
・National Solar Observatory Atlas No. 1, Solar Flux Atlas from 296 to 1300nm, 1984, by
R. L. Kurucz, I. Furenlid, J. Brault, and L. Testerman, National Solar Observatory, Sunspot, New Mexico 88349, U. S. A.
2)恒星
・A sample spectral atlas for Sirius, 1980, by R. L. Kurucz and I. Furenlid, Smithsonian 
Astrophys. Obs. Spec. Rep. No. 387, 145 pp.
・A Photometric Atlas of the Spectrum of Procyonλλ3140-7470 A, 1979, by R. & R. Griffin, The Observatory, Madingley Road, Cambridge CB3 0HA, England
・A Photometric Atlas of the Spectrum of Arcturusλλ3600-8825 A, 1968, by R. F. Griffin, Cambridge Philosophical Society, Cambridge, England

B. CD-ROM や on-line で利用できるもの
 Kurucz らの太陽スペクトル図表のデジタルデータ版が CD-ROMで出ている.Kuruczのホームページからダウンロードできる.
・SYNTHE Spectrum Synthesis Programs and Line Data (Kurucz CD-ROM No.18), 1993, by R. L. Kurucz (Smithsonian Astrophysical Observatory, Cambridge, MA)

 ADC や国立天文台天文学データ解析計算センター(NAOJ/ADAC)発行のCD-ROM にもいくつか入っている。参照用には十分使用できる。

ADC, Vol. 1 (1991)
・IUE Low-Disp. Sp. Ref. Atlas. I. Normal Stars (Heck et al. 1984)
・IUE O-Type Sp. Atlas, 1200 - 1900Å (Walborn et al. 1985)
・Stellar Sp. Atlas 3130-10800Å (Gunn & Stryker 1983)
・A Library of Stellar Spectra (Jacoby et al. 1984)
ADC, Vol. 2 (1995)
・Infrared Spectra for 32 Stars (Johnson, H.L. and Mendez, M.E. 1970, AJ 75, 785)
・An Atlas of Southern MK Standards from 5800 to 10,200 Angstroms(Danks, A.C.
and Dennefeld, M. 1994, PASP, 106, 382) 137 FITS files only
・An Atlas of Low-Resolution Near-Infrared Spectra of Normal Stars (Torres-Dodgen, A.V. and Weaver, W.B. 1993, PASP, 105, 693)
ADC, Vol. 3 (1996)
・IUE Atlas of O-Type Stellar Spectra, 1200-1900 A (Walborn+ 1985)
・High Resolution Atlas of Symbiotic Stars (Van Winckel+ 1993,1994)
・IUE Atlas of B-type Stellar Spectra (Walborn+ 1995)
ADC, Vol.4 (1999)
・IUE Low-Dispersion Spectra Ref Atlas I, Normal Stars (Heck+ 1984) 
・Stellar Spectrophotometric Atlas 3130-10800 A (Gunn, Stryker 1983) 

国立天文台天文学データ解析計算センター(NAOJ/ADAC) CD-ROM Catalog Vol. 2
・A Catalog of 0.2-A Resolution Far-Ultraviolet Stellar Spectra Measured with Copernicus (Snow Jr., T.P., and Jenkins, E.B.: 1977, ApJS, 33, 269)
・A Photometric Atlas of the Spectrum of Gamma Tauri 5186-8700 A  (Applequist, L., et al.: 1983, A&AS, 52, 237)
・An Atlas of Stellar Spectra between 2.00 and 2.45 micrometers (Arnaud, K. A., Gilmore, G., and Collier Cameron, A.: 1989, MNRAS, 237, 495)
・An Atlas of Stellar Spectra (Johnson, H.L.: 1977, Rev. Mex. Astron. Astrof. 2, 71; Johnson, H.L.: 1977, Rev. Mex. Astron. Astrof. 2, 219;
Johnson, H.L.: 1978, Rev. Mex. Astron. Astrof. 2, 273; Johnson, H.L.: 1978, Rev. Mex. Astron. Astrof. 4, 1)

C. On line で取れるもの
1)ELODIEのデータ
 Haute-Provence天文台の193cm鏡についているエシェル分光器ELODIEの結果211データ(A5〜K4、4400〜6800Å、分解能42000)がCDSから公開されている(Sourbiran et al. 1998)

http://cdsweb.u-strasbg.fr/Abstract.html

2)UESのデータ
Utrecht echell spectrograph (UES) による観測(F-M field dwarfs、4800〜10600Å、分解能55000)約50データがマドリッドで公開されている(Montes Mart? 1998):

http://www.ucm.es/info/Astrof/spectra.html

また、このホームページのスペクトルデータのリンク集は大変有用である。

3)KPNOのデータ
 キットピーク天文台から684星のスペクトルが発表されている。3820-4500Å、4780-4560Åの2つに分かれていて、解像力は1.8Åであるから、クイックルック用、あるいは銀河の合成スペクトルなどを作成するのに有用であろう。なお、これはCD-ROM(AAS CD-ROM Series, Vol.7)にも入っている。

ftp://ftp.noao.edu/catalogs/coudelib/

4)OAOのクーデ写真スペクトル 
 まもなく岡山74インチ鏡クーデ分光乾板データのデジタル版が公開予定。筆者らがデジタル化したもので、約100星(B, A, F, CP)の青色領域の0.1あるいは0.2Åごとの値を与える。

D. スペクトル線の強度や輪郭のデータ
 太陽ではMoore et al. (1966)のような網羅的な表があるが、他の恒星の場合は断片的なデータを個々の文献から拾うしかないようだ。デジタルデータとしてまとまって公開されているのは筆者に知るところ次がある。晩期型星のデータを収録している。

国立天文台天文学データ解析計算センター(NAOJ/ADAC) CD-ROM Catalog Vol. 2
3139A A Compendium of Equivalent Width Measures (Luck, R.E.: 1990, Case Western Reserve Univ.)


4.解析手段
 恒星大気吸収線から元素量や大気構造について情報を得るための解析手法についてはいくつか道具立てが用意されている。それを専門とする人は別として、既存の手段を用いるのは効率的である。

A. Kurucz's library
 上記の Kurucz の CD-ROM やホームページに彼が開発してきた各種のプログラムが公開されている。大気モデル計算用ATLAS、吸収線強度から元素量などを求めるWIDTH、吸収線スペクトルをシミュレートするSYNTHE、水素線輪郭を求めるBALMER などから成っている。FORTRANのソースなので適当なプラットホームでコンパイルして使うが、全くソースに手を加えずに動いたことがない。また、マニュアルなどは用意されていないので実際の使用に当たっては適当な指導者がいないと難しいかも知れない。

B. Gray's library
 IBM-PCベースの吸収線スペクトルをシミュレートするプログラムSPECTRUMと関連ソフトを R. O. Gray が公開している。Kurucz のと違って詳細な解説がついているので、使いやすいものと思う。ソースはついていないので詳細は分からないが、解説を見るかぎりではKurucz のものと同程度の内容と思われる。

ftp://am.appstate.edu/pub/prog/grayro

C. 竹田洋一氏のSPTOOL
 竹田洋一氏が公開しているプログラム群がある。最近、そのにKurucz のプログラムをベースに独自開発の改良を加え、Windows の機能を十分生かした使い勝手のよいプログラムが加わった。「インタラクティブにパラメータを変化させられて、その時、どのようなスペクトルになるか、視覚的に分かるようなプログラムが欲しい」という周囲の要望もあって作成されたもので、現在のところ、世界で最も親切なプログラムと言える。次から入手できる。

http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/~takeda/software.htm

この他に,適当なパラメータを入力すると合成スペクトルを表示してくれるウェブページがあったが,アドレスを忘失してしまった.


参考文献
Ferland G. J., Korista K. T., Verner D. A., Ferguson J. W., Kingdon J. B., Verner E. M. 1998, PASP 110, 761.
Montes D., Martin E. L. 1998, A&AS 128, 485.
Kurucz R. L. 1981, SAO Spec. Rep. No. 390, 319.
Kurucz R. L. 1990, in Stellar Atmospheres: Beyond Classical Models, ed. L. Crivellari, I.  Hubeny and D. G. Hummer, NATO ASI Series, Kluwer.
Kurucz R. L., Peytremann E. 1975, SAO Spec. Rep. No. 362, 1219.
Soubiran C., Katz D., Cayrel R. 1998 A&AS 133, 221.